Vol. 431(2008/11/2)

[今日のいきもの]赤トンボいろいろ

ノシメトンボとコノシメトンボ

赤トンボの仲間について、前はその代表とも言えるアキアカネとナツアカネを紹介しました
今回紹介するのも比較的よく見かける赤トンボ「ノシメトンボ」とそれによく似た「コノシメトンボ」です。


ノシメトンボの「ノシメ」とは、「熨斗目」と書きます。熨斗目とは和服の模様のひとつです。腰と袖にあたる部分に色がついています。ノシメトンボは実物を見るとすぐにわかるように、翅の先端部分が褐色になっています。これが袖に色がついた熨斗目模様と似ている、ということで名付けられたようです。別の説では、ノシメトンボの胸の模様が熨斗目模様に似ていたから、というものもありますが、いずれが正解かは不明です。ノシメトンボの(同じくコノシメトンボも)、一目でわかる特徴は翅の先端の模様です。これが名前の由来だろうと私は思います。
もうひとつのコノシメトンボは文字通り「小さいノシメトンボ」という意味で、実際ノシメトンボよりもやや小型です。翅の先端部分が褐色なのもノシメトンボと同じです。「大きさが違うから判別は簡単」と思ってしまうかもしれませんが、それは慣れた人の場合。初めての人が1匹だけいるノシメトンボまたはコノシメトンボを見ても大きい小さいなんてわかるはずもありません。大きさではない別の判別方法を知っておかなければならないのです。


では写真を見ていきましょう。まずはやはり熨斗目模様がよくわかる上からの写真です。

「赤トンボなのに赤くない!」と思われた方がいるでしょうが、これは写真が間違っているのではありません。まず、メスの方はどちらも真っ赤にはなりません。そして、ノシメトンボは褐色が強くなりますが、赤くはなりません。腹の一部が赤く色づく程度です。唯一コノシメトンボのオスのみが赤トンボらしくなります。それでも、これらは分類上はアキアカネなどと同じアカネ属に属しています。赤くならなくても赤トンボの仲間なのです。

ノシメトンボとコノシメトンボを見分ける方法、それはやはり胸の模様です。横向きの写真を見てみましょう。

見分け方の話の前に、コノシメトンボのオスは胸も赤くなっていることがわかります。また、顔の正面部分、「額(ひたい)」と呼ばれる部分も赤くなっています。
さて、見分け方ですが、胸の拡大を見ていただいた方がいいでしょう。

模様がわかりやすいメスを例にしていますが、黒い模様はオスもメスも共通です。
ノシメトンボは黒の2本線、コノシメトンボは黒の逆U字と覚えましょう。見分けるのはとても簡単です。
(ノシメトンボは、黒3本ですが、他の色にはさまれている黒2本が目立つので、「2本」で覚えても大丈夫です。コノシメトンボの逆U字もはっきりした逆U字模様ではないのですが、他のトンボに類似の模様はありませんので混乱することはないでしょう。)
ノシメトンボもコノシメトンボも枝先などにとまっていることが多いので、ゆっくり近づけば肉眼で確認することができます。網で捕まえるまでもありません。

コノシメトンボは7月ごろから見られますが、9月にかけて徐々に赤くなっていきます。これは他の多くのトンボと同じですね。例えば毎週撮影してみるとその変化が記録できるでしょう。
上の写真で、上段は左右同じ個体で7月中旬の撮影、下段は8月下旬の撮影です。上段の写真はメスのように見えるかもしれませんが、副性器がありますし、腹の先端の形を見てもオスだとわかります。8月撮影の方はかなり赤くなっていますが、胸はまだ赤くなっていません。


東京都23区の場合、ノシメトンボはよく見られる種類です。一方のコノシメトンボは珍しいわけではありませんが、場所は限られているかもしれません。どちらも7月ごろから見られますが、あまり目立たないのは日陰を好むからです。どうもあまり暑い気温は好みではないようで、日光の当たらない、涼しい林の中でよく見かけます。
しかも飛んでいることはめったにないので、気づかれないことが多いようです。とまっている場所は枝先のようなとがった場所、先っぽの場所ですので、何度か発見できればもう苦労しないでしょう。低木なら発見は簡単ですし、ちょっと高い木でも目が届く下の方の枝の先をよーく観察すれば見つかるでしょう。
9月になって気温が下がってくると、日陰から徐々に日なたに現れてくるようになり、飛ぶ姿も少しは見られるようになります。暑すぎるのは苦手ですが、寒すぎるのも苦手なようで、適温を求めて移動しているようです。さらに気温が下がっていくと、日当たりがよい場所を選んで日光浴をする姿が見られるようになります。

ノシメトンボはちょっとした林と水場があれば、普通に見られるトンボです。数が多くても目立たないのは、暗い場所にいることが多いため、アキアカネなどに比べてあまり飛ばないため、という理由からでしょう。トンボといっても飛び回っている種類ばかりではないわけです。トンボを観察する時には、このようなトンボがいることを忘れずに、あちらこちらといろいろな環境を探して回ることが大切です。


赤トンボの話は、もう1回続きます。

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