赤トンボの仲間について代表的なものを見てきましたが、これですべてではありません。残念ながら、私もあらゆるトンボを撮影しているわけではありませんので、今回は写真があるものだけを紹介したいと思います。
なお、これは他の回でも言ったことですが、トンボの判別の重要ポイントは胸の側面の模様です。この部分を比較するだけでもトンボの種類はわかる場合が多いですので、よく注意して観察しましょう。
まずはマイコアカネです。
写真はオスのみです。これはつまりメスを探しだせなかったということです。東京都内だとトンボが群れて存在するというのは限られた種類だけで、このようにオスまたはメスが単独でいるということも珍しくありません。そういう事情だとご理解ください。
さて、マイコアカネですが、「マイコ」とは「舞妓」のことです。写真のように顔の正面部分が青白い色をしていますが、これを舞妓の化粧に見立てた命名です。ただし、青白くなるのは成熟したオスのみです。オスなのに舞妓と呼ばれるとは…。
マイコアカネのオスの赤色は、他の赤トンボに比べるとやや青みがかっています。遠くから見ても、「あれ?アキアカネとは色味が違うな…」とわかるかもしれません。
次はマユタテアカネ。これもオスのみです。
顔を見ていただくとわかるように、顔正面に2つの黒い模様があります。これを眉に見立てて「マユタテ」という名前がつけられています。まあ、眉というよりも位置的には鼻の穴に見えてしまいますが…。写真はちょっとうまく撮れていないのでわかりにくいかもしれないのが残念です。この「眉」はメスにもあります。
ただし、他のトンボ、例えば上で紹介したマイコアカネの雌にも同じような模様があるので注意してください。やはり胸の模様と組み合わせて判別した方が確実です。
オスの翅は写真のように透明ですが、メスの翅は透明の場合と、ノシメトンボのように先端が茶色の場合があります。
次はリスアカネ。これまたオスのみ。
「リス」というのは哺乳類のリスのことではなく、人名です。イギリスのトンボ学者F. Ris氏が由来なのです。
翅の先端が茶色になるのはノシメトンボなどと同じです。胸の模様もノシメトンボに似ていますが、ノシメトンボのオスはここまで赤くはなりません。メスの場合も腹の模様がノシメトンボと異なります。そういう点に着目して見分けます。
最後に紹介するのがショウジョウトンボです。
しかし、ショウジョウトンボは赤トンボの仲間ではありません。赤いのに赤トンボではないとはどういうこと?と驚かれるでしょうが、それは次のような理由があるからです。
一般に赤トンボとは狭義ではアキアカネのことを指します。より広い意味でとらえるならば、アキアカネと同じグループである「アカネ属」が赤トンボであると言っていいでしょう。これまで紹介した赤いトンボはすべてアカネ属です。ノシメトンボは赤くありませんが、アカネ属なので赤トンボの仲間と言えるのです。
しかし、このショウジョウトンボはアカネ属ではなく、ショウジョウトンボ属に分類されます。そのため赤いのに赤トンボの仲間とは言えないのです。
しかししかし、ショウジョウトンボは胸や腹だけでなく、眼も脚も赤いという完全無欠に赤いトンボです。これを赤トンボと呼ばずして何と呼べばいいのでしょう? ならば「完全赤トンボ」と呼ぶのはどうでしょうか。
「ショウジョウ」とは「猩々」という伝説の動物のことです。顔が赤い、人間のような姿をしているとのことです。江戸時代や明治時代にはオランウータンを猩々と呼んでいました。「猩々」は一般に赤いことを指す言葉でもありましたので、このトンボがショウジョウトンボと名付けられたのも当然のことでしょう。
ただし、赤くなるのはオスだけ、メスはこのように普通の茶色トンボです。これといったわかりやすい特徴がないため、初心者がこのトンボを見ると種類がわからずに混乱するかもしれません。外見的な特徴は、上から見ると腹の中央がややふくらんでいること、翅の根元が黄色いことです。
ショウジョウトンボのオスも最初から真っ赤なわけではありません。未成熟のオスはこんな感じです。
トンボは成熟・未成熟で色が異なる場合が多いのでややこしいですが、こればかりは実物や写真を見ることで学習するしかありません。成熟・未成熟というものがあることを知っているだけでも大きなヒントになるでしょう。
赤トンボの仲間は他にもいろいろありますが、私の手持ちの写真はここまでです。もっと写真を撮るよう努力はしたいのですが、最近は東京タヌキの方が忙しくなかなかトンボに時間を回せません。それでもトンボは興味の対象であることにかわりはありません。ゆっくりとでも撮影を続けていくつもりです。
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