いきもの通信 Vol.68[今日の事件]またもやニホンザル逃走中 

Vol. 68(2000/11/12)

[今日の事件]またもやニホンザル逃走中

[ON THE NEWS]

東京都世田谷区で飼育されていた1才のニホンザルが10月9日に逃走した。その後、世田谷区、渋谷区で目撃され、10月31日には杉並区に現れたが都当局が駆けつけたときには姿を消していた。
(SOURCE:朝日新聞・東京版 2000年11月1日付)

[EXPLANATION]

ニホンザルの逃走といえば、1999年夏に六本木・麻布周辺をニホンザルが逃げ回った事件を思い出します。今回もまたもや、ニホンザルです。
動物事件についての雑誌連載もありますし、予備調査として東京都当局に電話取材をしてみたのですが、あまり詳しいことは教えてくれませんでした。新聞の記事も短すぎてあまり役に立ちません。今のところ、捕獲されたという報道もありません。ということで、今回はわかる範囲で書くことにします。(雑誌に書くときはもっと取材をするのですが。)

とはいえ、この事件については上に書いた概要程度しか手がかりがないので書きようがありません。都当局も目撃場所の情報を教えてくれませんでした(なんで?)。ただ、移動の途中で環7(環状7号線)という広い道路を横切っているのは間違いないようで、どうやってこれを横断したのか興味あります。横断歩道? 歩道橋? 線路? 川? ニホンザルならどれも可能性があるように思います。ニホンザルが夜行動するとも思えませんので、目撃した人がいる可能性はあります。
こういう事件でよく問題になるのは「東京都動物の保護及び管理に関する条例」違反ですが、このニホンザルはちゃんと都に届けられていた個体ですので条例違反ではありません。いやあ、これではほんとに書くことが無いですね。
ただ、ひとつ気になるのは、1999年のニホンザル逃走事件の時と比べて本気で捕まえようという感じがあまりしないことです。これは「飼い主がはっきりしている」か「飼育されていたのかどうか不明」というサルの立場の違いによるもののようです。1999年の事件では、おそらく飼われていたサルだろうと推測はされたものの(捕獲後のDNA検査でこれは裏づけられた)、飼い主が不明なので「野生動物」扱いになります。一方、今回の事件では飼い主がはっきりしているので「飼育動物」扱いです。「野生動物」の場合、都の担当は労働経済局になり、「飼育動物」なら衛生局となります。担当が違えば対応にも差がでてくるのも当然かもしれません。
さらに、「飼育動物」の場合、逃走動物を捕獲するのは飼い主の責任となります。都当局や警察は要請があればお手伝いをするだけ、なのでそうです。そんなんじゃあサルは捕まえられないでしょう。これが「野生動物」なら1999年の事件のように警察や上野動物園まで動員する事態になるわけです。飼い主がいるかいないかでこんなに対応に差がでるとは私は思いませんでした。
このような事情を考えると、今回の事件の場合はニホンザルの捕獲はかなり困難と思われます。


さて、「東京都動物の保護及び管理に関する条例」では、飼育に際して都への届け出が義務づけられている「特定動物」を指定しています。サル類は大型のサル類としてオランウータン、チンパンジー、ゴリラが、中型以下のサル類としてオナガザル科全種、ゲレザ科全種、テナガザル科全種が指定されています。これを見てニホンザルが含まれているとわかった方はサル通です。私は気がつきませんでした。不覚! ニホンザルはオナガザル科なのです。ニホンザルのしっぽは短いじゃないか!と思ってもオナガザル科なのです。納得できないものがありますが、本当です。オナガザル科の英名を見ると「Old World monkeys(旧世界ザル)」、つまりユーラシア大陸、アフリカ大陸に棲むサルののことなのです(おおざっぱに言うと)。ということはアメリカ大陸に棲む「New World monkeys(新世界ザル)」というのもいるわけで、こちらはオマキザル科のことなのです。
オナガザル科には尾の長い種が多いのですが、ニホンザルのように尾が短かったり、尾が無い種類もいます。まぎらわしいので別の名前に変えてほしいところです。一方のオマキザル科ですが、これはその名の通り尾を巻くことができるサルです。つまり長い尾を使って枝につかまることができるのです(しかし、尾の短い種もいる)。これは旧世界ザルにはできない芸当なのです。
ここでついでにサルの仲間である霊長目に含まれる科をすべて並べてみましょう。

コビトキツネザル科
キツネザル科
インドリ科
アイアイ科
ロリス科
メガネザル科
マーモセット科(マーモセット、タマリンなど)
オマキザル科(新世界ザル。リスザル、ホエザル、クモザルなど)
オナガザル科(旧世界ザル。ニホンザル、ヒヒ、マンドリル、コロブスなど)
テナガザル科
ショウジョウ科(オランウータン、チンパンジー、ゴリラ)
ヒト科

最後の「ヒト科」はもちろん人間のことです。
え? 都条例の「ゲレザ科」が無いですって?
…そうなんです。この「ゲレザ科」は手元の資料にはどれにも載っていないのです。学名、英名にも似た名前のサルはいません。霊長目の内のどれかのグループを指しているようなのですが、手がかりがないのです。今度都に取材する機会があれば確認しておきたいと思います。


追記

「ゲレザ」は「アビシニアコロブス(Colobus guereza)」の別名であることがわかりました。「世界哺乳類和名辞典」に載っていました(上記記事を書いた時は見落としていましたBlただし、これは種の名前なので、「ゲレザ科」とはコロブス属を指すのかもしれません。以前はこれを別の科としていたのでしょうか。都条例の「ゲレザ科」が具体的に何を指すのかはあいかわらずわかりません。なお、コロブス属は普通オナガザル科に分類されます。

(2000年11月26日)


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