Vol. 105(2001/10/8)

[OPINION]「東京都カラス対策プロジェクトチーム報告書」への意見書

9月に発足したばかりの東京都のカラス対策プロジェクトチームの報告書が9月28日に発表され、ホームページでも公開されています。報告書の内容についてはここでは解説しません。報告書そのものをご覧ください。東京都は、この報告書についての意見・提案を約1ヶ月間募集しているとのことで、さっそく私も意見書を書きました。以下はその意見書の全文です。この意見書は都知事あてにE-mailで送付しました。内容は要点をしぼったものですが、カラス問題の本質を指摘するようにしました。


東京都知事 様
東京都カラス対策プロジェクトチーム 御中

前略
「東京都カラス対策プロジェクトチーム報告書」を拝読しました。この報告書について、都市動物をテーマとしている者としての意見を述べたいと思います。

要旨
・カラス対策はゴミの夜間回収が最も効果的かつ平和的方法である
・現状以上のカラス捕獲は行うべきではない
・カラスへのエサやり禁止を徹底させるべきである
・「人間とカラスの接点を減らす」を基本方針とすべきである

・カラス対策はゴミの夜間回収が最も効果的かつ平和的方法である

これについては、既に私が雑誌上に書いた記事があります(「季刊リラティオ」 Vol.8「動物事件の読み解き方 第3回 東京カラス問題」、発行:チクサン出版)。カラス対策の検討にあたって当記事をご覧になっているとは思いますが、まだの場合は一度お読みいただければと思います。よって、以下では論点をしぼって述べたいと思います。

「夜間回収はコスト高などで実現困難」と思われている方が多いようですが、それは間違いであることを指摘しなければなりません。ゴミの夜間回収は福岡市の事例が有名ですが、その福岡市のゴミ回収システムを詳細に検討したことがあるでしょうか。福岡市は人口130万人の大都市ですが、ゴミの夜間回収を何の問題もなく続けています。しかも、トンあたりのゴミ回収のコストは東京都よりも少ないのです。「夜間回収はコスト高」というのは単なる思い込みにすぎません。福岡市のシステムを調査して参考にすることをすすめます。

また、ゴミの夜間回収を開始する時期についても考慮していただくようお願いします。開始に最も適した時期は秋です。この季節は木の実など自然の中で得られる食物も多く、生ゴミが消えてもしばらくは食料に困ることはありません。逆にゴミの夜間回収の開始時期として避けたいのは春から初夏にかけての繁殖期です。この時期に急に食料が減ってしまうと、カラスが食べ物を求めて無理に人間に接近したり、他の鳥のヒナなどを狙うおそれがあるからです。

なお、ゴミの夜間回収は一時的なものではなく永続的に実行されなければ効果も持続しないことを指摘しておきます。

・現状以上のカラス捕獲は行うべきではない

カラスを捕獲することがいけないというのは自然環境的あるいは倫理的な理由のためだけではなく、そもそも「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(鳥獣保護法)」によって禁じられているということを指摘しなければなりません。この法律には例外として「有害鳥獣駆除」があり、今回のカラス対策もそれを適用しようとしているのでしょうが、「カラスの通年捕獲」にこれをあてはめるのは適切ではありません。「有害」とは「人間に直接の危害を与える、または社会生活に相当の障害がある」場合に限られるべきです。東京都は2000年度から、繁殖期に巣を守ろうとして過剰に人間を攻撃する場合に限ってカラスを駆除していますが、これは確かに人間に危害を与えていますので、捕獲もやむを得ないと言えます。しかし、繁殖期以外の時期にカラスが人間を直接攻撃する事例は極めてまれです。つまり有害ではないのですから捕獲をする理由にはなりません。ゴミを散らかす程度の微罪で死刑とはバランスに欠く刑罰です。また、捕獲をするとしてもそれは人間を攻撃するカラス個体に限るべきであり、無関係のカラスを一網打尽にしようという今回の「通年捕獲」は過剰対応、見当はずれです。
このような法律的事情は東京都労働経済局林務課でも認識しているはずですが、なぜ今回の「カラス対策」として通年捕獲が挙げられているのか非常に疑問です。「カラスの通年捕獲」は直ちに取り下げるよう要望します。

また、「カラスの通年捕獲」は、その効果の点でも疑問があります。トラップで無差別に数百羽捕獲しても、繁殖で増えたり、郊外から都心へ移住するカラスがいることを考えると根本的な解決にはならないことを認識すべきです。今回の報告書でも首都圏で駆除されたカラスの数のグラフが掲載されています(p.9)が、毎年のように大量に駆除してもその駆除数が減ってはいません。これは捕獲に効果が無いことを示しているのではないでしょうか。捕獲よりも食料となる生ごみとカラスとの接点を絶つことこそが真の解決になるのです。

ところで、報告書では捕獲後の処分方法について書かれていませんが、これまでの経緯から推測すると殺処分するものと思われます。このことを明記していないのは、カラスへの同情論を回避する意図があるのではと疑わざるを得ません。このような重要な情報は隠すことなく公開すべきです。

・カラスへのエサやり禁止を徹底させるべきである

カラスのエサやり禁止はぜひ推進してほしい施策です。また、カラスは人間がハトに与えるエサを横取りすることがありますので、ハトへのエサやりも禁止すべきです。さらに言えば、その他の野生動物(カモ類、ユリカモメ、ミドリガメなど)へのエサやりも全面的に禁止すべきでしょう。一般の方々には信じられないことかもしれませんが、野生動物へのエサやりは動物保護にはまったく意味の無い行為だからです。
そもそも野生動物は、人間の助力が無くても自力で生きていけるものなのです。逆に人間がエサを与えるということは、野生動物の持つ「野生」の能力を奪っているだけです。エサを与えている人はその行為が「動物のためにいいことだ」と思っているようですが、それは明らかな間違いなのです。

参考として、環境省がに発表した資料がありますのでご覧ください。
環境省の資料(一般向けパンフレット)
 http://www.env.go.jp/nature/panf/hato/index.html
 http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=2475 (報道発表資料)
※または、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/)から、「報道発表資料」→「2001年2月」とたどっていくこともできます。

これはハトのエサやりを止めようというものですが、同じことはあらゆる野生動物にも言えることです。カラスのエサやり禁止も問題が無いどころか、カラス本来の生態を取り戻すためにもぜひ実行すべきことなのです。

エサやり禁止は条例にすることができればそれがいいのですが、条例にはなじまない種類のものかもしれません。その場合も、都の広報活動や公園での立て札設置などで啓蒙を行っていくことを希望します。

・「人間とカラスの接点を減らす」を基本方針とすべきである

カラス問題の原因は「カラスが多すぎるから」と考えられることが多いようです。しかし、問題点を整理してみるとカラス問題が生じるのは次の3つの場合にしぼられます。

1.カラスがゴミをあさる場合
2.カラスが巣を守ろうとする場合
3.公園などでハトのエサや人間の食べ物を狙う場合

これら3点はつまり、カラスが人間に異常接近する場合なのです。本来、野生動物に接近することは難しいものです。ハシブトガラスでも普通は10m以内に近づくことさえ難しいものです。なぜカラスが人間に異常接近するのか、これを解決することがカラス問題の解決になるのです。

2の場合は予防しようがないので、緊急捕獲もやむを得ないこともあるでしょう。

1の場合はゴミ回収システムの改善で解決できます。昼行性のカラスがゴミに接近できないようにするには夜間回収が最善の解となるのです。

3の場合は、エサやり(少なくともハトも含めたエサやり)を禁止することで、人間に近づいても食べ物にはありつけないということをカラスに理解させなければなりません。

「人間とカラスの接点を減らす」ためのこれらの対策を実行すればカラス問題は解決するでしょう。そして、「カラスの通年捕獲」は「人間とカラスの接点を減らす」という点ではなんら効果がないことを改めて指摘します。

以上

なお、この意見書は私のホームページでも公開しています。

動物ジャーナリスト
宮本 拓海


参考

過去の「いきもの通信」でのカラス関連記事

Vol. 13(1999/8/1) [今日の事件]東京都、ゴミの早朝回収を試行/都会のカラス退治は成功するのか?
Vol. 21(1999/10/3) [今日の観察]わははカラスと八百屋カラス
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EXTRA 3(2001/1/21)「季刊Relatio」連載「動物事件の読み解き方」補足 第3回 東京カラス問題
Vol. 76(2001/1/28) [今日の観察]補足・カラス対策
Vol. 101(2001/8/26) [OPINION]動物にエサをあげてはいけません!


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