いきもの通信 Vol.125[今日の事件]善福寺公園カラス変死事件 

Vol. 125(2002/3/31)

[今日の事件]善福寺公園カラス変死事件

動物が人間によって非合法的に殺傷されるという類いの事件は、新聞・テレビなどではあまり報道されませんが、ていねいに拾っていけば毎年何十件も発生していることだと思われます。この手の事件は気分的にも良くないものですが、それが身近で起こると嫌な感じはさらに増幅されるものです。


善福寺公園(東京都杉並区)については、以前カラス捕獲トラップについて書いた時に紹介しました。事件が起きたのは、そのトラップからそう離れていない場所です。以下の話は主に、この事件について私に連絡してくださった、同公園付近の住民の方の話に基づいています。

3月に入ってから、同公園と隣接する私有地などでハシブトガラスの変死体が相次いで発見されるようになりました。なぜ自然死ではないことがわかるかというと、人目につく場所に、複数の死体が並べて置かれていたりしたからです。野生動物の死体というものは、普通はそう簡単には目撃できないものです。野生動物は自分が弱っている時は外敵から姿を隠す傾向があります。例えば、やぶの中などに入ったりします。不運にも回復できなかった動物はそこで死んでしまいます。まれに人目につく場所で死んでいることもありますが、それは例外的といえるでしょう。死体が人目につく場所で、しかも連続して発見されるというのは非常に不自然なことです。半月程の間に20羽ほどのカラスの死体が発見されています。さらに、ネコ(野良猫?)も1匹死んでいました。
異常を察知した住民の方は、死体を保管して獣医に持ちこんだり、動物愛護団体などの協力で研究機関などに解剖と死因特定ができないか打診したそうですが、残念なことに「解剖できても毒物の検出ができない」とのことで、結局死因の解明はできませんでした。
死体を実際に見た獣医師によると、外傷が無いこと、口のまわりに泡を吹いたような跡があったとのことで、薬物による殺傷ではないかと推測しています。
野生動物が意図的に殺されたとなれば、これは明らかな鳥獣保護法違反です。第3条違反の「無許可の狩猟・捕獲」にあたります。過去にはドバトが殺された事件で、鳥獣保護法違反と軽犯罪法違反(第1条27、鳥獣の死体の投棄)容疑で捜査が行われたことがあります。また、ネコが殺されたとなれば、動物愛護法違反(第13条、愛護動物の虐待・遺棄)になります。同法は厳密には飼育動物のみを対象としていますが、ネコの場合は外を歩いているから、あるいは首輪が無いからといって飼い猫ではないと断定できません。そのため、同法の守備範囲に入ると考えていいでしょう。
このように、この事件に違法性があるのは明らかです。そこで、当然ながらその住民の方は地元警察署へ行きました。しかし、警察はまったく相手にしてくれなかったそうです。いわく、ピッキング盗などの対策の方が忙しいのだとか。警察は怠慢だ!と思う方もいるでしょうが、これが現実なのです。動物よりも人間の方を優先するのが人間社会なのです。ただ、これが飼い犬、飼い猫の変死だったならば警察の対応も違っていたかもしれません。

この事件は3月19日以降、テレビ、新聞といったマスコミで続々と報道されることになりました。これらの報道をご覧になった方も多いかもしれません。マスコミが関心を持ったのは、住民の方たちが情報を流したからです。そうでもしなければマスコミも興味を持とうとしないでしょう。
(ところで、私自身がマスコミなのかどうかは定義が難しいが、フリーの立場でしかも無名であっては発言する媒体がまったく無いため、何も協力できないのが残念である。だが少なくとも、この記事はどの報道よりも詳しいことは間違いない。)
報道の後は新たな変死体は発見されていません。異常に早かった花見の時期と重なって、人出が多かったのも幸いだったかもしれません。報道のおかげもあってか、警察や公園管理事務所でも見回りをするようになったそうです(どれほど頻繁にやっているのかは不明)。


ところで、この事件には伏線があったことも書いておかなければならないでしょう。その伏線とは、あのカラス捕獲トラップです。
善福寺公園のトラップは通行人によく見える場所に設置されています。1月下旬、「動物との共生を考える連絡会」(動物愛護・保護団体の連絡組織)が「トラップは青少年の健全育成に問題あり」という内容の要請書を都知事あてに出していますが、都カラス対策プロジェクトチームの回答は「よしずで囲って中を見えなくする」でした。その後まもなく、このトラップは2面がよしずに覆われてしまいました。狭い裏側に回ればよしずは無いので中の様子は確認できます。お役所が考えそうな対処療法的な措置だな、と苦笑いしてしまいました(善福寺公園以外でも目立つ場所のトラップがよしずで囲われた例がある)。
ところで、このよしずが設置された後、約1ヶ月もの間、カラスがトラップに全然かからなくなるという副作用が発生しました。カラスというものは状況の変化に敏感ですので、おそらく「新しいワナがあるのかもしれない」と警戒したのだと思われます。
さて、ここからは推測です。
この近所にカラスをとても嫌っている人がいたと仮定しましょう。その人にはトラップはとても頼もしいものに見えたでしょう。ところが、よしずが設置されてからはトラップが機能しなくなりました。これは面白くない事態です。「東京都がカラスを殺しているなら、自分が殺しても文句は言われないだろう」——その人はこのように短絡したのかもしれません。そして、カラスの毒殺を実行した——。
これは証拠も何もない、単なる推測です。しかし、ここ数ヶ月の状況を振り返ってみれば、トラップと変死事件の関連性がゼロだとも言い切れないのではないでしょうか。

東京都はカラス対策のひとつとしてトラップを設置しました。トラップには「都はちゃんとカラス対策をやってますよ」というアピールも込められていたに違いありません。しかし、その結果が変死事件です。都の意図とは異なり、このトラップの存在は「カラスは殺してもいい」あるいは「邪魔者は殺してもかまわない」ということをアピールしているのです。この意味でもトラップの設置は誤った施策であると言えるのではないでしょうか。
ところで、奇妙なことにこの事件の報道後、東京都カラス対策プロジェクトチームが原因究明に協力すると申し出ました。あのトラップを設置した都チームが、です。カラスを殺すことにあれほど熱心だった都チームが死んだカラスのことを考えているとはいったいどういう風の吹き回しでしょうか。死んだカラスに心を痛めるならば、トラップなど初めから設置しなければよいのです。このような事件が起こっても、都チームは2002年度もカラスの捕獲を続ける予定でいます。カラスを殺したいのか助けたいのか、やっていることに一貫性の無い行政の態度というのはまったく理解不能です。


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