いきもの通信 Vol.286[今日のいきもの]コウノトリ放鳥記念/コウノトリとツル、どこが違う? 

Vol. 286(2005/10/2)

[今日のいきもの]コウノトリ放鳥記念

コウノトリとツル、どこが違う?

兵庫県豊岡市のコウノトリの郷公園で、9月24日にコウノトリの野生復帰を目的とした放鳥が行われました。新聞などで報道されたのでご存知の方も多いでしょう。コウノトリの郷公園のホームページでは放鳥の様子の動画を見ることもできます。
詳しくは報道の通りで、私が特に付け加えることもありません。また、私も既に3年前に取り上げた(Vol. 138[今日の事件]コウノトリの郷公園にコウノトリが飛来、Vol. 190[OPINION]あいつが来てから1年たった/または、マスコミ情報の地方格差について)ことですので同じことを繰り返すこともないでしょう。
そこで今回はコウノトリについて別のお話をしようと思います。


コウノトリの姿をご覧になって、ツルに似てるなあ、と思われた方は多いことでしょう。長いくちばし、長い首、長い脚、すべてツルに似た特徴です。
答えを先に言ってしまうと、実際はツルはツル目、コウノトリはコウノトリ目に分類されるまったく違った種類なのです。コウノトリ目に含まれるのはサギ科、シュモクドリ科、コウノトリ科、ハシビロコウ科、トキ科の5科です。つまりコウノトリはサギやトキの仲間なのです。そういわれると何となくツルとはたたずまいが違っているように思えてきたりもします。

コウノトリとツルの外見からわかる決定的な違いというのは実は気付けば非常に簡単なことです。それは脚の指のつき方です。コウノトリ目(サギもトキも)は前方に3本、後方に1本です。一方のツル目は前方に3本、後方に短く1本です。遠くからは前方の3本だけに見えます(図鑑などでご確認ください!)。このことを認識できていればコウノトリはサギの仲間だと簡単にわかるのです。
この程度の違いは決定的なものではないと思われるかもしれませんが、これは生態にも決定的な違いをもたらしています。それは木の枝にとまれるか否かということです。サギが木の枝にとまっている姿を見たことがある方は多いでしょう。トキもそうですし、コウノトリも木の枝にとまれます。ところがツルはそれができません。後方の指が短いため、枝をがっちりつかんで安定することができないのです。
これでも決定的な違いではないと思われるしつこい方がいるかもしれません。しかしながらこの違いは繁殖という重大事項に大きくかかわっているのです。
サギ、コウノトリたち枝にとまれますので、巣を樹上に作ることができます。鳥にとって哺乳類は重大な天敵ですが、樹上の巣は哺乳類の攻撃には非常に安全な場所なのです。子どもは飛べるようになるまで巣を離れることなく過ごします。
一方、枝にとまれないツルは地面に巣を作ります。これは哺乳類にとっては格好の標的となります。そのため、子どもが孵化したら数日で巣を放棄しなければなりません。親子はあちこちに移動を続ける放浪生活にはいります。
こう説明すればコウノトリとツルは明らかに違うグループであるのがわかるでしょう。

ところで、昔の日本人がコウノトリとツルを別物だとはっきり認識していたかどうかは疑問があります。漢字こそ「鸛(こう、こうのとり)」「鶴」と区別していますが、漢字は中国起源なので日本人の認識とはいえない可能性もあります。
日本では「松に鶴」という言葉がありますが、ツルは木の枝にとまれないのでこの言葉は誤りです(もっとも、松の木の下に鶴、かもしれませんが。花札の図柄はそうなってますし)。江戸時代の絵画には鶴が松の木の枝にとまっている図があったりします。学者たちは別として一般にはコウノトリもツルも同じものと認識されていたのかもしれません。
そういえば、飛んでいる姿を比べると、ツルは首を伸ばして飛び、サギは首を縮めて飛びます。コウノトリはなぜか首を伸ばして飛びます(トキも伸ばす)。これを見るとコウノトリはツルの親戚のように見えてもしかたないかもしれません。

ツルといえば落語にこういう噺があります。


与太郎は頭が悪いためいつもみんなにからかわれていた。そこで与太郎は見返してやろうとご隠居のところに頭が良いように見える方法を習いに行った。ご隠居はそれならこの小話を覚えて披露すればいいと言った。
「海の向こうから鳥が『つー』っと飛んできて、海岸の松の木に『るっ』ととまった。だからその鳥には『つる』という名前がついた」
与太郎は喜んでこの話を披露しようとするが、
「『つるー』っと飛んできて…」
と言ってしまい話がつかえてしまう。


もうおわかりでしょうが、ツルは枝にとまれないのですからこの話は生物学的に誤りです。これはツルではなくてコウノトリかサギのことでしょう。この落語がいつごろのものかは知らないのですが、たいていの日本人はこの話を聞いても不思議に思わないでしょう(ずっと昔、私が初めて聞いた時も不思議に思いませんでした)。現代の日本人も大きな勘違いをひきずっているようです。
ちなみにこの落語のオチはといいますと、


与太郎「『つるー』っと飛んできて…」
男「で、それからどうなったんだい?」
与太郎「…そのままどっかに飛んでった。」


というものです。与太郎はやっぱりダメなやつだなあ、あはは、となるのですが、生物学的にはこれで正解なのです。実は与太郎こそが真実を語っていたのです!

コウノトリとツルのわかりやすいもうひとつの違いは、ツルは鳴く、コウノトリは鳴かない、ということです。無口なツルだったらちょっと困りますがね…。
鳥にとって鳴き声というのはコミュニケーションをするための重要な特徴です。それによく考えると鳴かない鳥というのも珍しいものです。では、コウノトリはどうやってコミュニケーションをするのかというと、くちばしをカチカチカチ…と鳴らして(しばしば同時に頭を後方にぐぐっとそらしながら)意思伝達をするのです。この行動は「クラッタリング」と呼ばれています。クラッタリングは鳴き声に比べてあまりにも単純であるためか、その研究はあまり進んでいません。それでもクラッタリングには求愛だったり、警告だったりの意味があることはわかっています。
テレビなどでコウノトリの様子を放映していれば、このクラッタリングを見ることができるかもしれません。テレビにコウノトリが登場した時には注意して見てください。また動物園で観察するのもいいでしょう(東京では多摩動物公園にいます)。ちなみに、コウノトリの他にはハシビロコウもクラッタリングをします。これは上野動物園のハシビロコウで私自身が確認しましたので間違いありません。


コウノトリはトキと同じような立場(絶滅に瀕している)にあるにもかかわらず、非常に認知度が低い鳥です。この機会にコウノトリにも興味を持っていただければと思います。


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