Vol. 312(2006/4/9)

[今日のいきもの]ゴイサギの首は短いか

前回に続いてサギの話です。
サギというと白いサギであるコサギ、ダイサギは目立ちますし、実際よく見かける種類です。その次あたりによく見る種類は今回紹介するゴイサギではないでしょうか。

ゴイサギとはイラスト(左)のような鳥で、濃い青と白のツートーンがおしゃれです。また、後頭部に白く細長い冠羽があってこれがかっこいい感じです。ただ、個体によっては冠羽が無い場合も珍しくありません。右のイラストも同じゴイサギです。色がまったく違うので同じ種類には見えないでしょうが、こちらは若鳥なのです。白い斑点模様から「星ゴイ」と呼ばれることもあります。生まれてから何年の間この色なのかというと、3年ほどなのだそうです。意外と長い時間がかかりますので、若鳥色のゴイサギを見るのはそれほど難しくないと思います。成鳥と若鳥の違いは羽毛の色だけでなく、目の色が成鳥は赤色、若鳥は黄色です。

ゴイサギは珍しい種類ではありませんが、実際に見たことがあるという人は少ないかもしれません。というのも、ゴイサギは主に夜行性だからです。昼間は、木の上の方で眠っているので発見はなかなか難しいものです。それでも、昼間に行動する個体も少数ながらいるのでゴイサギの観察は不可能ではありません。
ゴイサギは、前回も書いたようにサギ類の集団営巣地に混じっていることがありますが、それとは別に初冬の頃に集団ねぐらを作ります。ちなみに営巣地とねぐらとは別のもので、営巣地(巣)は産卵と子育てをする場所で、ねぐらは単に睡眠をとる場所のことです。
ゴイサギの集団ねぐらは、人間が近づけない、樹木が生い茂った場所に作られます。いったんゴイサギの存在に気づけばとても観察はしやすい場所になるでしょう。といっても、昼間は眠っているのでじっと動かず面白みはあまりありませんが。

夜、ゴイサギを観察することはあまりないと思うので、以下では昼間に観察できる話を書きましょう。
ゴイサギはどういう所にいるのかというと、魚がいる池や川にやって来ます。水深は、どちらかというと深い所が好きなようです。脚が短いのに、水深が深くて大丈夫なのか?と心配されるかもしれませんが、大丈夫です。ゴイサギは普通は水に入らないからです。だいたい水の上に伸びた木の枝にいることが多いですね。しかも、水面近くの低い枝を特に好みます。なぜ、低い場所なのかというと、理由は簡単、そこから魚を狙うからです。低い場所からなら、すぐに首を水に突っ込むことができるのです。もちろん、場所によっては少々高い所から狙うこともありますが、その時は体ごと水に突っ込まざるを得なくなりますし、距離があるために魚に逃げられてしまうリスクもあります。ゴイサギはこのようにして主に魚を食べます。というか、魚以外を食べているのを私は見たことがありません。このような生態のため、釣り堀や養殖場ではゴイサギはやっかいな害鳥になってしまいます。このような場所は魚が豊富な上に、待ち伏せしやすい垂直な岸もあってゴイサギには好都合なのです。しかもゴイサギは夜行性なのでなおさらです。

さて、サギというとコサギやダイサギといった首の長い種類がよく知られています。普通、サギというとこのような姿を想像することが多いでしょう。それらに比べると、ゴイサギは首が短く、かなり違う印象を受けるはずです。しかし実は…。
ゴイサギがエサを狙っている様子を観察してみてください。すると時々、水中をのぞきこむような動作をするはずです。その時、ゴイサギの首がぐぐーっと伸びるのです! どれぐらい長く伸びるのかというと、びっくりするぐらい(笑)です、本当に。これは言葉で説明してもわからないでしょうから、写真を見ていただきましょう。
写真左が普通の状態のゴイサギです。
そして、写真右が首を伸ばした状態です。

なんか、首と胴体が同じぐらいの長さがありますし! 私も知識としては知っていますが、目の前でこれを見るとやはりびっくりしてしまいます。これを見ればゴイサギもサギなんだなあと納得されるのではないでしょうか。ちなみに写真はいずれも上野動物園(オウサマペンギンのプール)で撮ったものです。東京でゴイサギを観察するならここが一番でしょう。ただし、ゴイサギ(他にもコサギなど)が集まってくるのはペンギンに食べ物をやる時刻だけですので、前もって予定時刻を調べておきましょう。
さて、本当は長いゴイサギの首ですが、じゃあ普段はどうなってるのかというと、首を縮めているわけです。といっても硬い骨は伸縮できませんので、横から見るとS字状に首の骨を曲げているのです。で、必要な時だけ首を伸ばすのです。コサギやダイサギも普段は長い首ですが、飛ぶ時は首を縮めています。あれと同じなのです。


最後にゴイサギの名前の由来について書きましょう。
ゴイサギは漢字では「五位鷺」と書きます。五位、というと何かの順番のようですが、これは実は官位、つまり昔の官僚の等級のことなのです。
このいきさつについては次のような話が伝えられています。
醍醐天皇(在位897年〜930年)が神泉苑(平安京の御所の中の庭園)に行った時、池にサギがいるのを見つけました。部下に命じてその鳥を捕らえようとしましたが、簡単には捕まりません。そこで、その部下はサギに「これは勅命(天皇直々の命令)である」と言ったところ、サギはおとなしく捕まったそうです。天皇はこれに感心し、そのサギに五位を与えたということです。
この話は平家物語(第五巻)、源平盛衰記、大鏡に記述があるそうですが、私はいずれも読んだことがないので詳細は知りません。また、この伝承の内容も出典によって大小の差異があるようです。
で、五位とはどのくらいエライのかというと、官僚の中でも宮中に入ることを許される(殿上人)のは従五位下よりも上の位です。つまり、五位は宮中に入れる位なのです。官職でいうと「少納言」が従五位下ですので、それぐらいの地位ということになります(これは時代によって多少異なるかもしれません)。いずれにせよ、宮中に入れるということはエリートといってもいいぐらいの階級なのです。ゴイサギは一般人よりもはるかにエライのですよ!
では、五位を与えられるまではゴイサギはなんと呼ばれていたのかというとそれは不明です。まあ、この伝承が実話とは考えにくいので、「ゴイ」という名前には別の由来があるのかもしれません。


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