Vol. 534(2011/11/27)

[東京タヌキ探検隊!・今日の事件]原宿タヌキ捕獲事件

2011年11月25日午前、東京都渋谷区神宮前2丁目のマンション敷地内でタヌキ2頭が発見され、警察官により捕獲されました。
神宮前といってもピンとこない方もいると思いますが、神宮とは明治神宮のことで、神宮前は明治神宮の東側一帯の住所です。一般的には「原宿」と言った方がわかりやすい場所ですが、実は「原宿」という住所表記はなく、神宮前の一部がいわゆる「原宿」なのです(かつては「原宿」という住所はあった)。今回の事件現場は原宿中心地からは少し外れた場所になります。

そういえば、昨年の11月にも大手町でタヌキが捕獲される事件がありました。今回もそれに似ています。
その理由ははっきりしています。秋は今年生まれのタヌキが親離れをして新しい定住場所を求めて移動する季節だからです。ですから、タヌキが定住していない場所(つまりタヌキが目撃されることがなかった場所)でもタヌキが目撃されることがあるのです。このような事件は毎年秋になると間違いなく発生すると言えます。

昨年の大手町で捕獲されたタヌキは皇居から旅立ったタヌキと推測されました。
今回のタヌキはどうでしょう。現場のすぐ近くで定住していた可能性は少なそうです。東京タヌキ探検隊!のデータベースではこれまで目撃情報がないことからも裏付けられます。データベースからはタヌキは緑地から遠くへは離れられない傾向があることもわかります。
ではどこから来たのでしょうか。現場から近い定住場所としては明治神宮、新宿御苑、赤坂御用地があります。いずれも豊かな緑地があり、タヌキが定住していることがわかっています。今回のタヌキは位置関係から言うと最も近い明治神宮から来たと推測されます。
明治神宮から発見現場に行くまでには必ずJR山手線・JR原宿駅の線路を越えなければなりません。明治神宮から線路に出るのは簡単です。神宮と線路は接しているからです。これは原宿駅を利用している人ならよく知っていることでしょう。次は東側道路に出なければなりませんがタヌキが原宿駅の改札を通って外に出たとは思えません。ストリートビューで現場を見ると、道路沿いにちょうどタヌキもくぐれる門がありました。ここを通っていった可能性が高そうです。
別の可能性もあります。これは知る人ぞ知ることですが、JR原宿駅には皇室専用ホームというものがあります。一般用のホームから北に少し行った所に控えめなホームがそれです。ちょっと地味なので知っていないとわからないでしょう。このホームは最近はほとんど使われていないようです。というのも、皇族の方々は新幹線など他の交通機関を使うことが多いからです。ダイヤがぎゅうぎゅうの山手線の隙間をぬって皇室専用車両を走らせるのも大変そうですしね。
この専用ホームは塀もがっちりしていてガードが固いのですが、門の下の隙間ならタヌキは出入りできそうです。タヌキは人通りの少ないこの場所を好むかもしれません。
道路に出てさらに東へ移動していくと明治通りがあります。ここは交通量が多い道路ではありますが、深夜なら車が途切れる時間帯があるかもしれません。とにかくタヌキたちは明治通りの突破に成功したようです。
こうして発見現場までたどり着いたのでしょう。

昨年の事件と今回の事件の違いは、昨年は1頭、今年は2頭ということです。この2頭の関係はどのようなものなのでしょう。
考えられるのは、今年生まれの兄弟(オス・メスの組み合わせはどれでもありうる)の内、仲良しの2頭ということです。もうひとつの可能性はつがい(夫婦)です。
一般的にはタヌキは、その年に産まれた子どもたちは秋には親離れをして別の場所へ移動していく、ということが知られています。ただし、そのまま居残る子どももいることもわかっています。
親の方はそのまま移動しないと考えられていますが、私の観察例からは親も定住しているわけではなさそうだ、と思われる例があります。つまり秋になると移動するのは子どもだけではなく、親夫婦も移動していることがあるようです。都会では巣に適した場所が少ないため、より良い条件を求めて別の場所を探すことがあるのかもしれません。
よって、今回の2頭の正体はわからないというのが正直な結論です。もし年齢がわかれば、1才未満(今年生まれ)ならば兄弟、それ以上なら夫婦だろうという推測はできそうです。


ところで今回の事件の場合、タヌキを捕獲する必要はあったのでしょうか。
あなたは家の庭にカラスやスズメがいたからといっていちいち捕獲しますか?
昨年の大手町タヌキ捕獲事件は、オフィスビル内への侵入だったので捕獲はやむをえません。神田川タヌキ落下事件は自力で脱出できなかったので捕獲すべきでした。
しかし今回はそういう特別な状況ではありません。タヌキが弱っていたとも思えません。弱ったタヌキを捕まるのに1時間もかかるはずはありませんから。何の問題もないタヌキならばそのまま放置しておいてかまわないはずです。
警察も捕獲要請があったからといってすぐに捕獲するのではなく、状況の確認と法的問題の確認(鳥獣保護法により野生哺乳類の無許可捕獲は禁止されている)をまずすべきでしょう。今回の場合は特に緊急性が高かったわけでもないのですから、きちんと確認をとって行動すべきでした。
また、新聞記事によると警察は「タヌキは多摩の山中に放すかも」とコメントしていますが、このタヌキが明治神宮から来たのはほぼ確実です。そこから遠く離れた場所に放り出すというのはタヌキに対する嫌がらせでしょうか。きちんと専門家に相談してほしいものです。


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