Vol. 131(2002/6/2)

[今日の勉強]動物食と植物食 その4

プレデターとスカベンジャー

以前、動物食と植物食の話を書きました(Vol. 107Vol. 108Vol. 109)が、その時書き忘れた話題がありました。それは「プレデター」と「スカベンジャー」のことです。

「プレデター」、「スカベンジャー」といってもたいていの人にはピンとこない言葉でしょう。「プレデター」の方は、「ああ、シュワルツェネッガー主演の映画」と連想してくれる人もいるのですが、あれは動物の話ではありませんしね。
これらの言葉は、動物食の動物について解説するときに登場する言葉です。
「プレデター(predator)」とは「捕食者」という意味です。生きている動物を狩猟する動物のことを指します。ですから、映画「プレデター」のタイトルも内容に合ったものではあるんですよ。
もう一方の「スカベンジャー(scavenger)」は「掃除人」という意味です。こちらは、死体を食べる動物を指します。
「プレデター」の代表はライオンやチーターです。「スカベンジャー」の代表は
ハイエナやハゲタカといったところです。厳密に言うと、ライオンも死体を食べることはありますし、ハイエナも生きている動物を食べることがあります。完全なプレデターあるいは完全なスカベンジャーというのはあまりいないのですが、食性の傾向を考える上では便利な言葉です。

「プレデター」、「スカベンジャー」といえば、以前「恐竜ティラノサウルスはプレデターか、スカベンジャーか?」という議論がありました。私たち一般のイメージとしては、ティラノサウルスは獲物を狩猟するプレデターでしょう。映画などでもそう描かれることが多いようです。しかし本当はスカベンジャーだったんじゃないか?という意見も登場し、議論になったわけです。
ただ、ティラノサウルスははるか昔の動物ですから、生態のことはほとんどわかっていません。この議論もまだ決着はついていないはずです。

動物を食べる動物というと、ライオンやチーターのようなプレデター型の猛獣を思い出されることが多いようですが、これは時には誤解を生みます。
例えばカラス(またまたカラスの登場で申し訳ない)。「カラスが小鳥を食べるせいで東京の小鳥は減ってしまった」と言われることがありますが、この説ではカラスはプレデターととらえられていることになります。しかし、カラスの食べ物をよく見てみると、プレデターではないことがわかるはずです。カラスの自然界での動物性の食べ物は、動物の死体、鳥の卵、ヒナ、昆虫、ミミズなどです。つまり、あまり動かないものを主に食べているわけです。もちろん、生きている鳥を襲うこともありますが、これはそう頻繁にすることではありません。私自身、カラスが狩りをする様子を見たことは一度もありません。カラスは実際はスカベンジャー的な動物なのです。
ただ、プレデター・スカベンジャーという言い方は動物食の動物についてのものですので、雑食性のカラスに当てはめるのは正確ではないでしょう。カラスは植物性のものも食べます。こういうことを考えると、カラスの行動の中のプレデター的な部分というのはかなり少ないと言えます。つまり、「カラスのせいで小鳥が減った」という説は間違っているのです。

森林の林床にいて死体を食べる小動物、例えばゴミムシやダニといった死体にたかる動物もスカベンジャーと呼ばれることがあります。これも意味的には間違っていませんが、純粋な動物食ばかりではなく、植物食の動物も混じっているかもしれませんので、あまりこの場合では使いたくない言葉です。
それでも「プレデター」、「スカベンジャー」という言葉は便利です。動物食・植物食・雑食という分類とは別に、「プレデター」、「スカベンジャー」という観点で動物を眺めてみると、いつもとは違う見方ができるかもしれません。


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