今年は各地で脱走した動物たち、あるいは捨てられた動物たちのニュースがいろいろとありました。この種類の事件は毎年のように発生しているのですが、今年は外来生物法が施行されたことや、サソリやヘビといった危険と思われている(が、必ずしも危険なわけではない)動物が目立ったためにニュースになりやすかったようです。
その動物が脱走したにせよ、捨てられたにせよ、私は飼い主の監督責任というものを考えるのです。日本では1990年代からペット・ブームになっているというのが私の見立てで、例えば小型犬の人気や爬虫類・両生類飼育の拡大、カブトムシ・クワガタムシ飼育の普及など非常に広い動物種がその対象になっています。つまり、それ以前に比べて動物を飼う世帯は確実に増加していると思われるのですが、では飼い主のモラルやマナーが向上したかというと、とてもそうは見えません。動物を飼うのならそれなりの「覚悟」というものが必要になるはずなのですが、それをきちんと理解していない人の絶対数が増えているように思えます。
動物を飼うならば、その前に動物を飼う覚悟を自分自身に問うべきでしょう。その「覚悟」とは例えばこのようなものです…。
動物を飼う場合に人間が必ずすることは「食べ物を与える」「寝る場所を用意する」の2つです。これは最低限のことであり、これもできないようでは飼う資格はありません。そして、これだけしかできないようでも失格です。動物の健康状態に注意を払い、快適に生活ができているかどうかを考えねばなりません。
ただし、過保護になれと言っているのではありません。イヌを甘やかせば言うことを聞かない厄介者になってしまいます。よく食べるからといって食べ物を過剰に与えれば肥満になってしまいます。「適切に」飼育する必要があるのです。
動物に法律なんて関係ないよ、と思っているようではやはり失格です。
まず、イヌを飼うなら必ず登録をしましょう。これは「狂犬病予防法」で決められていることです。現在では登録率がかなり減っており、狂犬病が発生した時のリスクが高くなっていると指摘されています。
その他の動物でも、法律に関係していないか事前に知っておくべきです。外来生物法で指定されている動物は飼うことはできません。動物愛護法で指定されているような危険な動物ならば、届け出が必要になりますし、飼育施設についても細かい決まりごとがあります。
動物を飼うならばこのような法律の知識も当然知っていなければなりません。
適切に飼育するにせよ、法律を知るにせよ、飼う前そして飼っている時にもその動物についての知識を勉強することは必須です。動物本来の生態を理解することで、より適切に飼うことができるでしょう。アライグマがかなり凶暴で頭がいい動物であることを知っていたならば、それを飼うには相当の根気が必要であることは事前にわかるはずです。ありきたりのペットの場合でもやはり勉強は必要です。例えばイヌでは品種によって性格や必要運動量が違っているのは今や常識です。
動物のことを知る努力もせずに飼おうというのはあまりにも安直な態度です。
「動物を飼う」=「動物とふれあう」と思っている人は多いでしょう。そういう側面は否定しませんが、だからといってあらゆる動物を放し飼いにしていいわけではありません。
イヌを外に出すならばヒモを必ずつける、というのは常識でしょう(イヌ専用の施設などでは別ですが)。世の中にはイヌが嫌いな人も多いのですから。
その他の動物でも脱走しないように管理するのは当然の義務です。イグアナやヘビなどが脱走したというニュースが時々ありますが、そのような事件は飼い主の監督不十分が問われているわけです。こういう事件を起こすこと自体が飼い主にとってははずかしいことなのです。
これは寿命が来るまで飼う、ということだけを言っているのではありません。何らかの事情で飼育が困難になったならば、飼い主自身が安楽死の結論を出さねばならないこともあるということです。
例えば、外来生物として非常に問題になっているアライグマ。もともと凶暴な性格であるため、飼いきれなくなった飼い主が捨てたケースが少なからず発生してきました。また、日本のカメ界を席巻してしまったミシシッピアカミミガメも、やはり飼いきれなくなって捨てられた例がかなり多かったことは明らかです。
最大の原則はやはり、寿命まで責任を持って飼うことです。最初にその覚悟ができないならば飼わない方がましです。それでも、住宅環境の変化などでどうしても飼えなくなったならば、新たに良心的な飼い主候補を探しだして譲渡することを第一に考えるべきです。保健所送りにするとか、安楽死させるとかは本当に最後の手段であるべきです。
おおげさであるかもしれませんが、飼い主は生殺与奪の責任を一身に負う覚悟が要求されるのです。
動物を飼うのなら、以上のような覚悟を持ってほしいものです。でも現実にはそういう人ばかりではありません。こういう覚悟を伴わないペット・ブームというのは非常に恐ろしいことだと思います。ペットの本や雑誌ではこういう話をちゃんと書いているのでしょうか。もしこういった「負の面」を書かずに、甘いことばかり書いているようならば、それは信頼できるものではありません。
そういうことを言うおまえはどうなのだ?、という意見も聞こえてきそうなので私自身のことも書いておきましょう。
正直に言うと、私にはその覚悟はありません。この覚悟はあまりにも重すぎます。動物が好きだからこそこのハードルが非常に高くなってしまっているのかもしれません。
また、今の私には経済的にも時間的にも動物に割く余裕はありません。こういう状態では飼っても動物を不幸にするだけでしょう。
よって私は動物を飼わないのです(飼えるとしても、カブトムシ・クワガタムシ成虫(繁殖は考えない)数匹が現実的な上限です)。
私はこういうホームページを持っていたり、動物イラストを描いたり、動物についての本を書いたりしているせいか、「何か飼っているのですか?」とよく質問されます。これってひどく的外れな質問ですよね。「好き」=「飼う」ではないのですから。この質問は、本音で言えば非常に不愉快な質問です。この文章を読まれた方は、私にはこの質問を絶対にしないよう強くお願いします。