※この記事は「季刊Relatio(リラティオ)」連載「動物事件の読み解き方」をお読みになっていることを前提に書いています。ぜひ「Relatio」の方もご覧ください。
(参照 EXTRA 0)
あのトラは「ベンガルトラ」か?この事件のトラは報道では「ベンガルトラ」とされていました。私も最初は「ベンガルトラ」と書いていたのですが、いろいろ調べていくうちに「このトラは本当にベンガルトラなのか?」ということに気づきました。このトラは国内で生まれたトラで、両親は行方不明とされています。このトラが「ベンガルトラ」であるためには両親共にベンガルトラでなければならないのですが、それを確認することはできません。ひょっとすると、親のどちらかが別の亜種である可能性もあるわけです。というわけで、記事では単に「トラ」とだけ記述しているのです。
「コドコド」って何?
東京都の条例で指定されている「特定動物」、つまり飼育にあたって事前に都知事の許可が必要な動物のリストは記事中の表1に掲載していますが、その中に「コドコド」という動物が入っています。「中型以下のねこ類」とのことですが、いったいどんな動物なのでしょう? 残念ながら手持ちの図鑑にも載ってないのですが、「世界哺乳類和名辞典」(平凡社)によると、チリ、アルゼンチンに生息するヤマネコの仲間(Felis属、イエネコも同じ属)のようです。この辞典で見てみると、ネコ科(Felidae。Felis属を含む)の動物の大半が特定動物になっているようです。ただし、全部ではないのが中途半端な印象です。
それにしても、この特定動物はどういう経緯で決められたのでしょうか。今回は字数の都合上そこまでは書けそうもないので調査はしませんでした。それにこの条例ができたのは昭和54年(1979年)。当時の事なんて誰に聞けばいいのかわかりませんし、聞いたところで「学識者による選定で決めた」ということになりそうです。それでも、なぜキリンやサイやヤマアラシが入っていないのかは気になります。ゾウは入ってるのに、ちょっと不思議な感じです。ちなみに、特定動物が哺乳類・鳥類・爬虫類に限られているのは、都条例の定義で「動物」=「人の飼養(保管を含む)する動物で、ほ乳類、鳥類及びは虫類に属するものをいう」となっているからです。これは「動物愛護法(旧「動物管理法」)」でも似たようなもので、こちらは哺乳類または鳥類となっています(爬虫類は無い)。両生類や魚類や昆虫は法律の対象外なのです。まあ、昆虫まで含めてしまうと対象が膨大になってしまうので現実的ではないのも確かですが。
関連情報の入手方法
・ワシントン条約、国内法
「環境六法 平成12年度版」(中央法規)に収録されています。本書は毎年最新版が発行されています。本書には他の動物関連法や環境全般の法律、関連する条約が収録されています。動物と法律に関する基礎的な資料となります。ただし、ワシントン条約の附属書は省略され収録されていません。ワシントン条約の附属書は非常に膨大で、変更もたびたびあるため、残念ながら収録している書籍はほとんど無いようです。こういう場合はインターネットに期待するしかないのですが、これまた残念なことに国内のホームページには情報が無いようです。海外では例えば
Canadian Wildlife Service(カナダ政府・カナダ野生生物局) CITES office<http://www.cws-scf.ec.gc.ca/cites/intro_e.html>に付属書記載動物が掲載されています。このサイトのリストは分類別になっていて、英名も記載されているのでデータの検索がやりやすくなっています。CITESの公式ホームページは<http://www.wcmc.org.uk/CITES/>で、英語、スペイン語、フランス語別にホームページが用意されています。英語のホームページ<http://www.wcmc.org.uk/CITES/eng/index.shtml>のメニュー「CITES Databases」から「Fauna」(動物界)を選ぶと、付属書掲載動物の検索画面になります(「Flora」は植物界)。ここで、いろいろな条件を指定して検索できるのですが、完全なリストは非常に大きく、表示にかなり時間がかかります。付属書Iの完全なリストでも1.5MBのHTMLファイルになりますのでご注意ください。「目」や「科」ぐらいに絞った方がいいでしょう。
国内法はインターネットで検索すれば全文または抜粋が掲載されているホームページがいくつか見つかります。
・東京都動物の保護及び管理に関する条例
東京都内の公立図書館などで調べることができます。あるいはインターネットでは東京都立衛生研究所のホームページの中の
<http://www.tokyo-eiken.go.jp/vet/index.html>
に全文が掲載されています。同条例は2000年春に改正されましたが、その改正条例についても掲載されています(PDFファイルで提供)。同様の条例は各都道府県と政令指定都市で制定されています。これらについても各自治体、図書館などで調べることができます。しかし、インターネット上ではほとんど見つけることができませんでした。法律や条例は行政・自治体が全文をインターネットで公開すべきだと私は前から思っているのですが、現実ははるかに遅れているようです。
(以上は2000年7月時点での内容です。)
「いきもの通信」との関連
この事件については、この「いきもの通信」でもすでにVol. 33で取り上げています。文章の主旨は同じなのですが、読み比べていただくと「Relatio」誌の内容の方がかなり詳細であることがわかると思います。これは、まあ、気合いの差でしょうか。「Relatio」誌の方が読者数は多いですから(原稿料ももらえるし…)。だからといって、「いきもの通信」がいいかげんというわけではありませんのでご安心を。