その4 動物六法を選ぶとすれば
「六法」と言えば法曹関係者にはおなじみの言葉です。「六法全書」というと、いろんな法律を集大成した本のことを指します。「六法」というからには6つの法律のことを意味しているのですが、それが何かご存知でしょうか。まあ、法曹界の方には常識的なことなのですが、憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法のことを指しています。最も基本的な法律のことであるわけですね。もっとも「六法全書」はこの6つの法律だけを収録しているわけでなく、非常に多くの法律を掲載しています。
また、法律関係の本にもいろいろあって、「環境六法」という本もあったりします。これは、大気汚染、水質汚染からはじまって動物関係、環境関係の法律をまとめた本です。この本の中では動物分野は小さなものでしかありませんが、動物問題・動物事件を扱う場合には欠かせない本です。さて、では動物関係の法律の中から「六法」を選ぶとすればどれになるでしょうか。ざっと候補を挙げてみると以下のような法律が並びます。
●鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)
野生動物のうち、哺乳類と鳥類を対象にした法律。鳥獣保護事業について定めているが、元々は狩猟に関する法律であったため、その手続きに関する項目が多い。
●動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)
飼育動物の適切な管理についてを定めた法律。飼育動物には哺乳類、鳥類、爬虫類が含まれるが、畜産動物や実験動物などは例外扱いされる。飼育動物への虐待を禁じる項目の他、動物取扱業者(主にペット店)についての規制が定められている。
●絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)
ワシントン条約に対応する国内法。絶滅のおそれのある野生動植物を保護するための法律。希少野生動植物の取引規制について定めている。
●文化財保護法
重要文化財、無形文化財 、民俗文化財 、埋蔵文化財 、史跡、名勝、天然記念物などについて定めた法律。動物にかかわるものは天然記念物だけだが、これに指定されるとさまざまな規制がされてしまい、研究や駆除が困難になってしまうことも少なくない。
●特定外来生物による生態系等に係わる被害の防止に関する法律(外来生物被害防止法)
もともと国内にはいなかった外来種(移入種)の内、特に生態系や産業に被害を与える動植物についての予防と対策を定めた法律。今年夏から施行される新しい法律。現在、オオクチバス(いわゆるブラックバス)を指定種にするかどうかでもめている。今年特に注目すべき法律であることは間違いないだろう。
●狂犬病予防法
文字通り狂犬病の予防と対策について定めた法律。飼い犬の登録と予防注射について定めている。ただし、狂犬病はその他の哺乳類でも発生する可能性があるため、狂犬病発生時には犬以外も法律の対象となる。
現実には飼い犬の登録率はかなり低く、狂犬病が発生した時のリスクが懸念されている。●感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)
感染症の予防とまん延の防止について定めた法律。鳥インフルエンザ、マラリアなど動物が媒介する感染症も多く、それに関する項目がある。
●家畜伝染病予防法
家畜の伝染病の予防とまん延の防止について定めた法律。口蹄疫、狂犬病、ブルセラ病、伝達性海綿状脳症、豚コレラ、高病原性鳥インフルエンザなどが対象となる。
●獣医師法
獣医師の免許、業務について定めた法律。
●刑法
第261条の「器物損壊」についてが動物にかかわる部分。他人のペット(飼育動物)に傷害をおわせた場合、器物損壊罪となる。刑は「三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料」。現在では動物愛護法が適用されることが多い。
●軽犯罪法
第1条12、27、30に動物に関することが書かれている。
ざっと挙げるとこのようなところでしょうか。他にも家畜関係・漁業関係の法律と関連する施行令、規則などが多数あるのですが、これらは「動物」というよりも「産業」という視点のものですのでここでは省略します。
さて、これらの中から6つを選ぶとすれば、
まず自然保護に直接かかわる●鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)
●絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)
●文化財保護法の3つは外せません。
そして、飼育動物については●動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)
●狂犬病予防法の2つが重要です。
そしてもうひとつが●特定外来生物による生態系等に係わる被害の防止に関する法律(外来生物被害防止法)
です。この法律は内容不十分ながら、今後の自然保護を考える上で避けて通れないものとなるでしょう。
本当はもうひとつ
●感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)
も加えて「七法」にしたいところです。SARS、鳥インフルエンザ、西ナイル熱など、動物がからむ感染症のリスクは今後も増大すると考えられるからです。
法律というと難しいものだと思われるでしょうが、動物事件を考える上では避けて通れないものです。なぜなら、動物事件というものは人間と動物との関係上で起こるものだからです。人間だけ、動物だけでは動物事件にはなりません。そして、人間社会は法律によって運営されており、法律は飼育動物だけでなく野生動物をも対象にしているのです。
法律を理解せずして動物事件は語れず。これから時々これらの法律について少し詳しく解説をしていく予定です。法律なんて…と敬遠せずに、ご購読ください。